統一に背を向ける韓国――恐中論が加速(2007/2/14)
90年代初め以降、韓国は北朝鮮との統一を恐れるようになった。豊かになるほどに豊かさを失うのが嫌になったから。最近、新たな理由が加わった。「強大になる中国」だ。韓国は「北」が、恐ろしい隣国との緩衝国になってくれればと願い始めた。
強大化する中国への恐怖
韓国の最大手紙、朝鮮日報の今年の新年企画が象徴的だった。この企画では韓国の大学教授や記者ら北朝鮮の専門家が、核実験後の朝鮮半島情勢を展望した。興味深いのはここで語られた「北朝鮮の金正日政権が何らかの理由で崩壊した場合」への対応策だ。「すぐさま韓国が吸収統一すべきだ」と主張した識者は皆無だった。
多くの識者が「南北格差をまずなくすべきだ」と主張し、緊急に対応処置が必要な北の治安問題に関しても「国連の平和維持軍の旗の下で、中国と米国が部隊を派遣して秩序を維持する」ことを前提として議論した。
一部の識者は、「韓国が平和維持軍を単独で派遣すべきでない理由」までも説明してみせた。「韓国には能力がない」あるいは「国際法上、北朝鮮は韓国とは別の国である」がそれだ。さらには「崩壊後の北は中国の事実上の支配下に置かれる」などと、他人事のように淡々と予測する人もいた。
「統一」に腰の引けたこの韓国人の姿勢を日本人、あるいは中国人や米国人が知ったら驚くに違いない。あれほど統一を願っていると主張し、統一できないのは周辺大国のせいだ、と長い間非難してきたのに、いざそのチャンスが来たら、しり込みするとは……。
韓国の知識人に疑問をぶつけた。
「なぜ、米国と中国は平和維持軍の能力を持つとする半面、韓国にはないといえるのか。北の住民とは同じ民族で言葉も通じる。『駐屯軍』として貴重な資質だ」、「ある国家の消滅という超法規的状態下で、国際法がどれだけ意味を持つだろうか。ほんの少し前までは同じ国だった韓国が面倒を見たり、吸収合併するのに対し、文句をつける国はない」、「この機に一気に統一しておかないと、邪魔が入るのではないか」――。
こう聞くと、韓国の知識人の多くは黙ってしまう。一応答えてくれる人もいるのだが、要するに「統一したくはない」という本音を、少し異なる表現で語っているのだった。
統一したくない、という理由に関しては「せっかく豊かになったのに、もう、貧しい生活に戻りたくはないという韓国人の恐れから」と過去の回(「孤立する韓国」2007年1月17日」を参照))に書いた。だが、知識人と「北崩壊後」の国際関係を詰めて議論していくと、新たな恐れが彼らの胸中に密やかに生まれたことに気付く。それは日に日に強大化する中国であり、これこそが統一忌避の新たな動機となっている。
緩衝国家としての「北」
「中国の強い影響を受ける国であろうと、北朝鮮という国家が間に存在すれば韓国は中国と直接、国境を接せずに済む。安全保障上も心理上も韓国にとっては大きなプラスだ」。「北崩壊後の韓国のあり方」を語る韓国の知識人らの発言の断片をつなげれば、こういうことになる。
そもそも冷戦末期から「北朝鮮の存在によって歴史上、初めてわが国は中国と切り離された。この大陸勢力との決別、それとコインの裏表をなす海洋勢力たる日米との結合。これこそが現在の経済発展をもたらした」という認識が韓国にはしっかりと広まっていた。
当時は外国人に対し「分断の痛み」を主張する韓国人が多かったのだが、実は、うちうちでは「海洋国家への歴史的な転換」という単語をもってして「分断の利点」が語られていた。確かに、北朝鮮と軍事的に厳しく対峙はしたものの、北朝鮮によって軍事大国、中国と国境を構える必要はなくなった。
ことに、冷戦末期には中国の経済力はまだ小さく、半面、韓国は五輪に成功するなど先進国入りにメドを付けていたから「史上初めて韓国が中国よりも大きな経済力をつけた」と考えられていた。当然、軍事的な脅威も今ほどには感じず、米国と韓国の関係は極めて良好だったこともあって、統一後の「中国と接するリスク」は韓国人に省みられることはなかった。当時は、元気のいい「吸収統一論」が韓国社会で幅を利かせていたのだ。
だが、90年代末から中国の経済的台頭がはっきりし、軍事的にもいずれは米国に追いつくほど強大になる、と信じられるようになった。さらには米韓関係が改善不可能なまでに悪化し、今や、在韓米軍撤収も近い将来に起こりうると考えられ始めた。この状況変化の下、いま韓国人は「中国リスク」を百年ぶりに思い起こしている。
ここ数年の韓国紙には、外交官の交通違反から漁船の不法操業、中朝国境の確定問題など、さまざまの局面で「韓国を脅す傲慢な中国への怒り」があふれる。それと同時に「中国の威嚇に抗せない弱い韓国の卑屈さ」を嘆く記事も急増する。これら「恐中論」は韓国のジャーナリズムにとって「反日記事」同様に、ひとつの定番商品に育ち始めた。
もちろん「中国との緩衝国家として北朝鮮を存続させた方が得」と大声で、露骨に語る韓国人にはまだ、お目にかかれない。さすがに「同族を盾にすることで自分だけは安穏に暮らしたい」とは言いにくいのだろう。だが、「中国が支配する北朝鮮」は、不愉快さや不利益だけではなく、安堵感や利点ももたらしてくれることを韓国人は十分に感じとっている。
これまで、韓国人が統一を嫌がる要因は「経済」にあった。さらに、もっと大事な命まで左右する「安全保障」上の要因まで加わった。「統一忌避への希求」はより根強くなって行くだろう。
東北工程への「反発」は
もっとも、こうした見方に対しては「韓国人は中国の『東北工程』に強く反発している。韓国は中国の北朝鮮支配に明確に反対しているではないか」という疑義も出されよう。
東北工程とは90年代後半から中国の学会が本格化した中国東北部の歴史研究プロジェクトを指す。韓国メディアは口をそろえて「この研究を通じて現在の北朝鮮地域に存在した高句麗を中国の地方政権と見なし、崩壊後の北朝鮮支配の名分を打ちたてようとする中国の陰謀」と主張する。
確かに、東北工程に対する韓国人の反発は大きい。ある中国の外交関係者は「どんな韓国人と会っても必ず『中国の陰謀』をしつこく非難される」と苦笑する。
だが、それが感情的な「反発」を超え、具体的な「行動」に至るかは疑問だ。この問題で中国を厳しく批判する韓国人にこう聞いた。
「高句麗が中国史の一部だという認識が中国に存在しても、それを名分に中国が北朝鮮を領土に加えるのは国際的常識からいってありえない。『中国の陰謀』が気になるのなら、北が崩壊したら韓国が主導して北の治安を維持し、さっさと統一を宣言すれば済むこと。中国を含め誰も反対できない」。
この質問に対する韓国の知識人の答えを仔細に聞くに、要は「面子を汚された」ことに対する怒りが中心である。さすがに中国が朝鮮半島の北半分を自分の領土に正式に組み込むと本気で思っている人はおらず、せいぜい北に親中政権ができる、と予想するぐらいだ。そして、それについては「必ずしも愉快ではないが、織り込み済み」と冷静に見る人が多いのだ。
東北工程への反発に代表される韓国人の「反中」が、将来生まれうる「中国の強い影響下の北朝鮮」を阻止する具体的動きにつながるかは疑問だ。むしろ、東北工程などを巡る「傲慢な中国」への非難は将来、韓国が北を緩衝地帯にして生存を図った時の、自らに対する、あるいは後世に対する「我々は統一を強く願ったが、中国が邪魔した」という言い訳の「証拠」に使われるのかもしれない。
薄れる同族意識
だが、さらにこうした疑問を持つ人もいるだろう。「いくらなんでも、同族を盾にできるのか」。
答えは2つ。まず、中国への巨大な恐怖心。陸続きの巨大な隣国に千年以上も圧迫されてきたその心細い心情を島国に住む日本人が実感するのは難しい。日本人に対しては、韓国に住めば分かる、としか説明のしようがないのかもしれない。
もうひとつは、「同族意識の急速な希薄化」だ。20歳代の若者に「北朝鮮をどう思うか」という質問をしてみる。すると「敵でも味方でもなく、単なるひとつの外国」という答えが返ってくることが非常に多い。
朝鮮戦争の直接的な記憶や、父母を通じての鮮明な追体験を持つ50歳代以上の人には「敵意識」が根強い。一方、戦争体験がないうえ、軍事独裁政権の反共教育に反発して育った30歳代半ばから40歳代の世代は、もちろんすべての人がそうではないにしろ、韓国よりも北が正しいとする「親北勢力」の中核を構成する。憎むにしろ好意を持つにしろ、30歳以上の世代は「北」を同族として強力に意識してきた。
だが、87年の民主化以降に育ち、イデオロギーに関心の薄い、もっと若い世代は北を「単なる外国」としてしか、つまり同族としては見なさなくなった。分裂が長く続いたという「時間」が外国意識を生んだだけではない。韓国が豊かになり民主化する中で育った彼らにすれば、飢餓と強制収容所に象徴される北朝鮮を、自らと同じ民族と思いたくない心情も強く働く。
2006年に韓国の保守系サイトで興味深い議論が展開された。ある投稿者が「北朝鮮の住民を助ける必要はない。独裁と戦って倒した我々(韓国人)のように強い意思も能力も持たないやつらだからだ」と記した。
統一への希求は比較的に保守派の方が強く持ち続けている。だが、そのサイトでさえ「北は我々とは違う、あるいは『異質な国』である。どうなろうと見捨てるべきだ」という意見が堂々と語られるようになった。今後、時間がたつにつれ同族意識の希薄化がより進むのは間違いない。
中国と接するリスク
では、「中国と接するリスク」を減じるために韓国が分裂状態の維持に努めると朝鮮半島はどうなるのか。これまで予想されてきた「北東アジアに起こりうる今後のシナリオ」は微妙に、しかし当然、変わってくる。次回、それを書く。
注)参考にした朝鮮日報はネット版(韓国語バージョン)による。
(引用終わり)
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